なぜ利他性は残り続けるのか

投稿者: | 2018年1月5日

概要

  • なぜ他人のために行動する人がいるのだろうか?
  • 遺伝的に淘汰されることはないのか?
  • 「個体として淘汰されても生き残る」一見矛盾したような状況の説明を考えてみます

利他性

利他性 とは、他人の利益になる行動を取る性質 を指します。
特に、それが自分の利益にならない、あるいは損失になる としても、
他人の利益を優先した行動を選択する性質を表します。

例えば、草むらに羊の群れがいたとして、
その群れに狼が近づいてきたとします。
狼も羊たちも互いの存在には気づいていません。
ところが、群れの中のある羊だけ、狼の接近に気づきました。
羊は鳴けば、仲間に危機を知らせ逃げる合図を送ることができますが、
狼に自分の場所を知られてしまう可能性があります。
このとき、自分の危険を顧みず、
他の羊を逃がすために鳴き声を上げる行動は利他性の表れと言えるでしょう。

ただし、このような利他性を持った羊は、
狼に食べられてしまうかもしれません。
そうすると、その羊の遺伝子は後世に残らない可能性が高くなります。
ということは、利他性を表す遺伝子は自然淘汰によって消えていくのでしょうか?

羊に限らず、人間でも利他性を持った人がいるように感じます。
自分の利益にならなくても人のために行動をする人に心当たりはないでしょうか?

そのような人が実際に損をしていてるなら、遺伝的には消えゆく運命なのでしょうか?
生物が誕生してから何度も世代交代を繰り返した今でも利他性を目にしますが、
彼らの利他性はどこかから湧いて出てきたのでしょうか?

よく見かける説

利他性が自然淘汰でなくならない理由について、
よく見かける代表的な説を3つまとめておきましょう。

英雄になる説

一つ目は、他人のためになる行動を取った結果、
それが、他人から大きく評価されて、
後から報酬が貰えるというものです。

つまり、自分の犠牲を厭わずに人を救うと、
英雄として讃えられてモテモテになるので、
利他性の遺伝子はちゃんと残るというものです。

この説の問題点は、英雄になるためには、
必ず生き残っていなければならないという点です。

死んでしまっては元も子もないので、
自分を犠牲にするリスクを背負うからには、
それを補って余りある報酬が約束されていないと、
遺伝による利他性の保存は難しいと思われます。

利他性は実は利己性説

二つ目は、そもそも利他性なんて存在しないという説です。
全ては利己的な行動の結果で、
他人のために行動しているように見えても、
実は、その見返りを期待した上で行動しているだけというものです。

一つ目の説でも見返りの話がありましたが、
一つ目と二つ目の大きな違いは、
遺伝子に利他性と利己性の区別があるかどうかです。
こちらの説では、どの個体でも、
見返りさえ見合っていれば利他性を示します。

ただ、やはり、死んでしまっては元も子もないので、
リスクに見合うだけの報酬が約束される状況以外は、
利他性が見られないことになってしまいます。

突然変異説

三つ目は、突然変異によって利他性が表れるという説です。
これは、遺伝の過程では利他的な個体は淘汰されてしまうけど、
一定数は突然変異で再び現れるというものです。

確かに、この説では利他性が利己性よりも不利に働きつつも、
利他性が世代を超えて現れ続けるという状態が保たれます。

ただし、突然変異に頼るしかないので、
利他性を持つ個体の数はかなり限定的になります。

最初の羊の例でも述べたように、
利他性はその集団の生存にとって大きな利益となる可能性があり、
どちらかと言うと利他性は保存されるべき対象だと思われます。

この説では、利他性にインセンティブがないので、
利他性が選択的に保存される仕組みがなく、
例え集団の利益になろうともただただ排除されるだけの存在で、
たまに突然変異で出現することになります。

利他性遺伝子は個体として残るのではない説

上でも述べてきましたが、
利他性を示す個体自体は遺伝子を残せない可能性が高いのですが、
利他性が排除されてしまえば集団全体にとって不都合になります。

つまり、利他性を示す遺伝子は残らないけど残るという矛盾が生じます。

では、どのようにこの矛盾の折り合いをつければよいのでしょう?

私が推したいのは、利他性遺伝子は個体として残るのではないという説 です。

どういうことでしょう?
個体として残らずに何として残るのでしょうか?
順番に説明していきましょう。

遺伝子は個体に帰属するか集団に帰属するか

遺伝子と聞くと個体の中にコードされた情報というイメージを真っ先に浮かべます。
「私の遺伝子とあなたの遺伝子は違うもの」といった時には、
個体がそれぞれもっている遺伝子の像を思い浮かべていると思います。

DNA鑑定で犯人を特定というのも、
遺伝子は個体について回るものというイメージを連想させますね。

ところで、この個人の遺伝子はどこからきましたか?
そう、両親の遺伝子を半分ずつ受け取ったものですね。

では、両親はどこからきましたか?
同じ町で出会った二人かもしれませんし、
もっと広く、全人口の中から選ばれた二人となりますね。

つまり、特定の集団の中の二人から遺伝子を半分ずつ受け取って、
個人の遺伝子ができています。

当たり前のことのようですが、
重要なのは、世代をまたぐとき、遺伝子は、
前世代の個体の遺伝子がそのまま残るのではなく、
集団の中で再生産される

ということなのです。

つまり、遺伝子は個体の性質を受け継いでいるようで、
集団の性質も受け継いでいる ということです。

これの何がすごいかと言うと、
個体として遺伝子を残せなくても、
集団として生き残るのであれば、
その集団の性質は保存されるということです。

利他的な個体を生みやすい集団が生き残る

上のある種当たり前の性質を振り返っただけで、
ほぼ答えは出ていますが、
利他性がなぜ保存されるのかに答える形に整形していきましょう。

利他性を示す遺伝子は、特定の遺伝子配列の組み合わせを指すと考えられます。
そのため、利己的な母、利己的な父であっても、
組み合わせによって利他的な子供が生まれます。

もちろん、その組み合わせを生むためには、
母と父の遺伝子に組み合わせの一部分が存在しないといけません。
そのような利他性を示すためのパーツを持つ人の数が多いほど、
利他性を持つ子供が生まれやすくなります。

すると、ある集団では利他性を持つ個体を生みやすく、
別の集団では利他性を持つ個体を生みにくいという違いが表れることがあります。

利他性を持つ個体を生みやすい集団は、
初めの羊の例のように、自身を犠牲にしてでも、
集団を救ってくれる個体が表れやすく、
集団として生き残る可能性が高くなります。

この時、利他的な個体自体は生き残れないかもしれませんが、
利他性を生み出す集団自体が生き残るので、
その後も続けて利他性をもつ個体が生まれてきます。

このように、利他性をもつ個体は生き残れないものの、
利他性を生み出す集団が生き残る
ことで、
利他性が保存されるという説です。

この説では、利他性の見返りは利他的行動を取った当人ではなく、
その個人が帰属する集団に与えられるだけでよく、
また、集団に対して利他性を生み出すことのインセンティブが与えられているので、
利他性を選択的に保存する仕組みが含まれています。

このように、別の説の問題点をうまくカバーできる説となっています。

まとめ

利他性が遺伝的に保存される仕組みについて、
ふと自分で納得できる説明を思いついたので、
まとめてみました。

おそらく、専門家の間では、
より進んで議論されているのでしょうが、
とりあえず、極めてシンプルに説明できるので、
個人的に大満足です。

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